賃貸トラブルの予防に必須な「定期借家契約」とは?

最新更新日 2024年03月10日
執筆:宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士 三好 貴大

おそらく不動産オーナー様の多くは、悲しくも過去に家賃滞納や入居者とのトラブル、契約違反など、何かしらのトラブルを経験したことがあると思います。
「良い人に長く住んでもらいたい」と願う不動産オーナー様がほとんどですが、賃貸経営を営んでいると悪い入居者が入ってしまうこともあり、そのトラブルには過度なストレスや経済的な損失が発生します。

もし、
・良い人だけが申し込みしてくれる
・入居後もマナーを守ってくれる
・万が一何かあったときは円滑に契約を解除できる

という理想を実現できる契約があるとすれば、知りたいと思いませんか?

それが「定期借家契約(定期建物賃貸借契約)」です。

今回は定期借家契約の概要や「決まり辛くなるのでは?」「賃料を下げないといけないのでは?」といったよくある懸念点について解説しています。
また、実務で最も困る方が多い「再契約」についても参考記事など紹介していますので、
ぜひ最後までご一読いただければ幸いです。

従来の賃貸借契約の問題点

従来の賃貸借契約の問題点

定期借家契約で契約している認識がなければ、最も一般的な契約である「普通借家契約(建物賃貸借契約)」で契約しているはずです。

普通借家契約は戦前から存在し、今なお主流となっています。まだ賃貸借に関する法律がなかった頃、家主と借主の力関係には大きな差があり、借主の立場は非常に弱いものでした。
不当に追い出されて家を失うのは社会環境として良くないということから、借主保護の観点で徹底的に借主(入居者)が強く守られる法律が誕生し、現代の借地借家法となりました。

しかし、時代は変わり、現代では家賃を払わない、近隣に過度な迷惑をかける、ルールを故意に破るといった不良入居者であっても、借地借家法を盾に居座り続けることができます。
明らかに借主が悪くても大家さんは弁護士費用や裁判費用、立ち退き費用などの支払いで大きな損失を被ってしまうことになります。

「あまりに大家さんの立場が弱いので、万が一不良入居者が入ってしまった場合の対策を何か考えられないか?」という強い想いから、賃貸業界で生み出されたのが「定期借家契約」を活用した賃貸手法です。

定期借家契約とは?

定期借家契約とは?

定期借家契約は2000年3月に施行され、本来は「3年後に建物を取り壊すので、それまでの間だけ貸したい」「3年間海外出張に行くので、その間だけマイホームを貸したい」などの「期限を設けて賃貸したい」という意向をより確実に実現するために誕生しました。

普通借家契約では「更新」という概念が存在しますが、定期借家契約には「更新」という概念がなく、契約期間の満了で契約は終了となり、借主はそれまでに必ず明け渡さなければならないというものです。

しかし、家主としては「長く住んでもらいたい」と考えていますので、例えば定期借家契約で2年間契約し、契約期間中に特段の問題がなければ、再度定期借家契約で2年間契約(再契約)することで、借主が再契約し続けてくれる限りは長く住んでもらうことができます。

これにより、入居中に悪質な家賃滞納や近隣とのトラブルなどが発生した際は、再契約を行わずに契約を終了させることで、円滑に退去を求めることが可能となります。
また、悪質な入居者は自身で心当たりがあるケースが多いので、そもそも定期借家契約の物件には入居しない傾向にあり、賃貸トラブルの未然防止にもつながります。

定期借家契約については国土交通省からも普通借家との違いや活用方法が公表されています。

定期建物賃貸借(国土交通省)

【パンフレット】大家さんのための定期建物賃貸借契約(国土交通省)

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定期借家契約のよくある懸念点

定期借家契約のよくある懸念点

ここまでの説明でメリットも感じたかと思いますが、よくある懸念点としては以下のようなものが挙げられます。

①借主にとって抵抗があり決まり辛くなるのではないか

まずは、借主の立場から考えてみましょう。お部屋探しをする際に心配されることの一つとして、「引越ししてきたら変な人が住んでいて、トラブルになったりしないかな・・・」という不安があります。

しかし、定期借家契約には賃貸トラブルの未然防止と万が一のトラブル時には円滑に退去してもらえることから不良入居者を排除することができるため、「変な人が住んでいない」「万が一変な人が引越ししてきてしまっても大丈夫」という安心感に繋がり、借主にとってメリットを感じてもらえます。

つまり、定期借家契約がかえって物件を決めるときのメリットになるのです。
上記の説明を行うことで決まり辛くなる懸念はなくなりますが、大手法人の場合は社内規定で定期借家契約は不可となっていることがほとんどなので、その際は入居者の人柄に問題がなければ、普通借家契約も可能としましょう。

気を付けるポイントは、「悪いことはしないですけど、定期借家契約だと2年後に出ていかなければいけない可能性があるのは不安なので、普通借家契約なら申込したいのですが」と相談を受けたら、間違いなく断りましょう。
そのような交渉や相談を持ち掛ける方は、一見人柄が良さそうに見えても入居後にトラブルとなる可能性が極めて高いです。

成約事例として紹介しているこちらの2物件は、両方とも定期借家契約で契約を行いました。

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②相場より賃料を下げる必要があるのではないか

特に身内で使う予定がある場合や建て替えを検討している場合でなければ、減額する必要はありません。
私の経験上では、定期借家契約によって相場から下げることになったケースはなく、新築でも定期借家契約で全戸(大手法人は除く)契約したケースは何棟もあります。

また、定期借家契約の場合は「更新」がなくなるため「更新料」はなくなりますが、その代わりに「再契約料」として更新料同等額を受領しますので、家主にとってはメリットが大きく、貸主・借主ともに特段のデメリットはありません。

賃料についてはこちらの記事で解説します。
定期借家契約だと賃料が下がるって本当ですか?

③手続きが面倒くさいのではないか

確かに、定期借家契約を締結するときには、契約書とは別紙で定期借家契約であることを説明しなければ、要件を満たさず定期借家契約ではなく普通借家契約になってしまいます。

定期借家契約を締結するための方法はこちらの記事で解説しています。
定期借家で契約するにはどうしたら良いの?

また、不良入居者に対して契約の終了までに退去を要請するためには、契約期間満了の半年前から1年前までに契約が終了する旨の通知を出さなければいけません。
ちなみに、出し忘れた場合や出していなかったが契約満了の半年を過ぎてから再契約できないようなトラブルが発生した場合は、終了通知を出してから半年後に契約の終了を主張することができます。

定期借家契約を終了させて明け渡しを求める方法はこちらの記事で解説しています。
定期借家契約を終了させて明渡しを求めるには?

再契約するときは新たな契約となりますので、「更新契約書」や「覚書」といった紙1枚ではなく、重要事項説明書や紛争防止条例に基づく説明書など、新たに定期借家契約を締結するときと同じ書面を用意しなければいけません。

「再契約」についてはこちらの記事で解説しています。
定期借家契約の「再契約」で気を付けるトラブルとは?

しかし、これらは全て不動産業者が行うため、家主が自ら行うものではありませんので、家主に負担が掛かるものではありません。

最後に

賃貸トラブルの未然防止や有事に備えるリスクヘッジとしては、賃貸経営には必須である手法です。
しかし、不動産会社の多くは「面倒くさいな・・・」と感じて、家主から「定期借家契約が良いって聞いたんですけど?」と尋ねても、断り文句として「決まり辛くなる」「家賃が下がる」と言い訳して取り合ってくれないことが多いです。

何かあってからでは多大なストレスと経済的な損失を被り、不動産会社に言っても「法的に責任はない」と突っぱねられてしまい、残念ながら泣き寝入りした家主を見てきました。
そのようなことがないように、定期借家契約を実務で扱っている不動産会社に変えることも、賃貸トラブルの未然防止策の一つだと思います。

ご愛読いただきありがとうございました。

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