死亡事故と遭遇したら

最新更新日 2023年12月29日
執筆:宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士 三好 貴大

家主として最も発生してほしくない賃貸トラブルは物件内での死亡事故・事件であり、万が一異変を感じて玄関を開け、部屋に入った際に遺体を発見してしまったら・・・頭が真っ白になってパニックになる方も少なくないと思います。中にはそのまま気を失ってしまう方もいます。

 

それは家主だけでなく、賃貸管理会社の担当者も同様です。私の遺体発見から事後処理までの経験を踏まえて、遺体発見から次の入居者が決まるまでの流れを解説したいと思います。

 

①警察へ連絡

遺体発見に至るには様々なパターンがあります。

・入居者の親族や知人から「本人と連絡が取れない」と連絡が来た

・建物の住民から「異臭がするから確認してほしい」と連絡が来た

・全く連絡が取れず、職場に連絡するも出社していないため立ち入って確認することにした

など様々です。

 

私が経験したのは、宅内の火災報知器が作動し、全く音が止まなかったので近隣住民が消防署に連絡し、消防や警察が建物を取り囲んでいた際、それを目撃した方が当社へ連絡をくれて現場へ駆けつけました。

 

基本的に、安否確認のために宅内へ立ち入る際は警察同行の上で行いましょう。ただ連絡が繋がっていなかった場合、無断で立ち入ると揉め事になる可能性があり、警察同行であれば正当性と客観性が増してトラブルになり辛いです。

また、万が一遺体を発見した際にスムーズに対応することができます。

 

 

②遺体発見

遺体を発見したら警察による検視が開始します。「事件性の有無」によってその後の対応は異なります。自然死など事件性がない場合はすぐに物件内の整理やリフォームなどに取り掛かれます。

しかし、事件性があると認められた場合は鑑識による証拠品回収や刑事による現場検証などを行うため、しばらく宅内へ立ち入ることができなくなり、遺品整理やリフォームも行えなくなります。中には犯人が見つからないまま証拠保存のために何年も事件後そのままになっているケースもあります。

 

私が経験したケースでは高齢者の自然死だったため、2~3時間ほどで警察は引き上げていきました。

ちなみに、警察に家主や賃貸管理会社が「死因」を聞いても教えてもらえませんが、事件性の有無は教えてもらえることもありますので、今後の募集活動に大きく影響するため必ず確認してみましょう。

 

 

③親族(連帯保証人や緊急連絡先)に連絡

警察から家主や賃貸管理会社に親族の連絡先を教えるよう求められますので、入居申込書や賃貸借契約書等の情報を提示することになります。その後、数日以内に警察から親族へ連絡が行きます。

その後に連絡した方が話はスムーズに進められるため、1週間ほど空けて親族に電話してみましょう。

 

遺体は早期発見であれば宅内の身分証等で本人確認ができますが、発見が遅れて腐乱が進んでいた場合、DNA鑑定で本人か特定してからでないと詳しい死因や警察が収集した証拠品などは遺族に渡されないため、およそ2週間から1か月ほどかかります。私の経験ではDNA鑑定で1か月以上かかりました。

 

遺族に連絡する目的は、「死因(事件性の有無)の確認」と「残置物の処分」、「原状回復費用の負担」について話をするためです。

残置物は法律上、相続財産となるため、勝手に処分することはできません。本来は相続人に処分してもらうか、相続人全員の承諾を得て家主が処分するかのいずれかです。

 

私が経験したケースでは、相続人3名のうち1名が認知能力に問題があり、残置物も不用品がほとんどであったことから、相続人代表者に相続人全員の合意に基づき残置物の所有権を放棄する旨、以後相続人に異論が生じた場合は相続人代表者の責任で対処する旨を合意書で残しました。

また、宅内の処分するもの、相続人へ引き渡すもの(金銭や重要書類など)の確認立会は相続人全員が高齢者で遠方に住んでおり、上京することが困難だったため、関東に住む親族へ代理委任していただき、一緒に分別を行い、引き渡す物品は受領書とともに宅急便で相続人代表者へ送りました。

 

本来、賃貸借契約に伴う賃借権は相続の対象になるため、相続放棄しない限りは相続人へ相続されます。そして、解約を行うと原状回復義務を相続人は引き継ぐこととなります。ケースバイケースですが、遺族も心を痛めているところに多額な原状回復費用まで請求してしまうのは気が引けてしまいます。なるべく敷金や後記④火災保険・保証会社の見舞金を駆使して請求を無しにする、または少額にするよう心がけましょう。

 

 

④火災保険・保証会社を確認

遺体発見後、少し落ち着いたら以下の3つを確認しましょう。とはいえ、遺体発見から1~2か月以内が申請期限になっているケースもあるため注意しましょう。

1)家主の火災保険

2)賃借人の火災保険

3)家賃保証会社

 

家主が加入している火災保険では「家主費用特約」があり、死亡事故による損失家賃や原状回復費用を補填してくれる特約に加入しているかもしれません。賃借人が加入している火災保険では、「遺品整理費用補償」「死亡による修理費用補償」などが盛り込まれている可能性があります。

家賃保証会社も家賃だけでなく、死亡事故による原状回復費用を補填してくれる可能性があり、契約上は盛り込まれていなくても、一度相談すれば個別対応で補填してくれる場合もあります。

 

私の経験したケースでは、賃借人の火災保険で50万円、家賃保証会社で30万円の原状回復費用が認定されました。

 

 

⑤リフォーム

腐乱してシミになってしまっている場合、床の貼り替えは必須となります。また、腐乱していた場合は悪臭が壁や床、天井に付着してしまっているため、表装の貼り替えだけでなく消臭作業も行う必要があります。

中には床のスラブ(コンクリート)まで体液が染み込んでしまい、特別消臭でも臭いが取れない場合があります。その現場を行ったリフォーム業者は屋上防水で使用するウレタン塗装で臭いを抑え込んだそうです。(正しい施工かは疑義がありますが)

私が経験したケースでは壁床天井に加えて3点ユニットバスやキッチンも全て交換しました。

 

 

⑥空室募集

募集する際の賃料は相場に比べて10~20%、殺人事件など特に心理的瑕疵の大きい場合は30%以上減額しないと成約は困難です。また、事件性がある場合は同じ建物内の住民にも知れ渡るため、一斉退去が発生する可能性もあり、家主としては泣きたくなります。

しかし、空室のままだと収入がゼロになってしまいますし、その後も入居者が何回か入れ替わることで風化のスピードも少し早まるという見解もあります。告知義務がなくなるまでの間であっても、賃料は徐々に戻ってきます。

私は殺人事件(絞殺)のあったアパートの賃貸管理に携わっていましたが、年数が経つにつれて告知しても嫌がる方は減ってきて、賃料も事件後は大幅に減額しましたが、徐々に増額していっても無事に成約していました。

 

前回お伝えした「事故物件の告知義務」の通り、告知義務を果たさなければいけません。しかし、問い合わせが来た際の「伝え方」によって受け取られ方は異なり、内見や成約に至る可能性は格段に変わります。

大事なのは、「いつ」「なぜ」「どのように発見された」のか、「表現方法」を整理して、相手にとって不快に感じないように伝えることです。

例えば不謹慎な話ですが、以下の2つではどちらの方が不快感が和らぐでしょうか?

「以前、自殺があった部屋なんですが大丈夫ですか?」
「4年前以上前の話なんですが、このお部屋で薬をいっぱい飲んでお亡くなりになった方がいて、数日で病院に搬送されたのでお部屋内は特に何もなかったのですが、その点いかがですか?」

前者だと、「以前って数か月前なんじゃないか」「自殺って首吊りとかなのかな」「死後何か月も経って酷い状態だったんじゃないか」と様々な不安がよぎります。

しかし、後者のように伝えれば「4年前ならいいか」「首吊りとかじゃなければまあ」「すぐ発見されたなら臭いも大丈夫そう」と感じていただける方もいます。

 

 

⑦申込・契約

上記⑥で伝えた内容は必ず「重要事項説明書」に記載するか、家主と借主直接の契約だった場合は契約条文に容認事項として盛り込む、別紙で覚書を作成するなど、必ず「書面」で記録を残しましょう。

 

 

万が一死亡事故が発生した際は基本的に以上のような対応となります。もちろん死亡事故が発生しないことが一番ですが、賃貸経営を行う上では不測の事態は付き物です。

今後は高齢化社会に伴って高齢者の単身入居も増える傾向にあります。例えば、高齢者と賃貸借契約を行う際には安否確認サービスの加入を必須にすることも一考です。また、高齢者でなくても、内見時や申込時に粗暴な人や異変を感じる人は入居させないように心がけるべきです。

 

賃貸トラブルの多くは未然予防が要となり、トラブル発生後は迅速な発見と対応が不可欠です。

ご愛読いただきありがとうございました。

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