事故物件の告知義務

最新更新日 2023年12月29日
執筆:宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士 三好 貴大

家主として最も発生してほしくない賃貸トラブルは物件内での死亡事故・事件であり、「事故物件」になってしまうことで精神的・経済的にも大きな負担を抱えてしまいます。

 

すぐにでも忘れ去ってしまいたいことではありますが、事故物件になってしまうことで「告知義務」が発生してしまい、一定期間は家主か媒介業者(不動産業者)が借受予定者に対して事前告知をしなければいけません。

ちなみに、「死亡事故が発生しても、誰かが一度契約して退去すれば、その次からは告知しなくても良いと聞いた」とお声をいただくこともありますが、それは誤った知識です。

正しくは、「死亡事故(心理的瑕疵)が風化(ある程度忘れ去られる)したら告知しなくても良い」とされています。

 

また、賃貸物件内で人が亡くなったら全て告知事項が発生するのかというと、そうでもありません。「人が亡くなる」と一言で言っても、

・自然死(老死)

・病死

・自殺

・他殺

・変死

など様々です。(あまり「死」や「殺」という言葉が乱立すると気分が良くないですね・・・)

 

自然死や病死は誰でも起きうることなので心理的瑕疵には該当しないと言われていますが、例えば室内で遺体が腐乱してしまっていた、近隣で有名な出来事になってしまっていた、などの場合は借受予定者にとって不快に感じる可能性が高いことから告知義務が発生します。

 

では、告知義務が発生した際に「風化」と認められるには、どのくらいの期間が必要なのでしょうか?

実は正解がなく、あくまで裁判に至った際に裁判官の判断に委ねられるのが実情です。

 

現在、国土交通省で心理的瑕疵の告知に関するガイドラインを策定するため、以下のような検討会が実施されています。

「第1回 不動産取引における心理的瑕疵に関する検討会」

 

将来的にガイドラインが公表されれば、それに則って判断することができるのですが、現時点では判例を基にした各々の考えで告知を行う必要があります。私の中の基準では、弁護士の見解を基に以下のような線引きを行っています。

・他殺→10年

・自殺→7~8年

・自然死や病死で、遺体の腐乱や吐血等によって室内の損傷が発生した場合→5年

 

最後に、室内損傷のなかった自然死・病死は、心理的瑕疵には当たらないという判例がありますが、私は2~3年ほど告知した方が良いと考えています。法律や判例上、告知義務違反に該当しなかったとしても、不快に感じる人が多いことは事実であり、法律的な責任を負わなかったとしても、恨みを買ってその他様々な賃貸トラブルの発生を招くことになります。

もちろん死亡事故が発生しないように未然予防を行うことが重要ですが、万が一発生してしまったときはもう過去に戻ることはできません。二次被害を発生させないように、心苦しくも適切な告知に努める責任が生じてしまいます。

ご愛読いただきありがとうございました。

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