賃貸トラブルでの「遅い対応」に潜む大きなリスク

最新更新日 2023年12月22日
執筆:宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士 三好 貴大

「エアコンから冷風が出ない」「お湯が出ない」「漏水している」「トイレが流れない」「上の人の足音がうるさい」など、賃貸経営を行っていると様々なトラブルが発生します。

賃貸トラブルが発生した際、
・連絡が繋がらない
・電話で「折り返します」と言われたまま折り返しがない
・「業者から連絡させます」と言われたのに連絡が来ない
・明日と明後日は定休日なので連休明けに対応しますと悠長なことを言われた

などは、トラブルが炎上してしまう典型的な例です。

そして、「対応が遅い!」と入居者が怒ってしまい、様々な問題が発生します。
今回は遅い対応によるリスクと対応策について解説していきます。

怒りが募って冷静な話し合いができなくなる

深夜から早朝にかけてであればまだ入居者の理解もあり揉めることは少ないですが、
・営業時間中なのに電話が繋がらない
・連休中に連絡手段や対応手段が全くない
・電話で「折り返します」と言われたまま折り返しがない

といった状態が発生すると、その時間の分だけ怒りが募っていき、中には怒鳴る人もいます。

そうすると、「今すぐ対応しろ」「明日じゃ遅い、今日中に何とかしろ」と、こちら側の話を一切聞いてくれなくなり、冷静な話し合いができなくなります
それでは些細なトラブルも解決が出来なくなってしまいますので、入居者が「連絡」という行動を取った際に、なるべく早くその状況をヒアリングできる体制を整える必要があります。

賃料滞納や賃料減額交渉などが発生する

対応が遅くストレスが溜まってしまうと、「おたくの対応が遅いなら、俺の対応も遅くて良いってことだよな?」賃料滞納が発生するケースがあります。
もちろん、法律上は対応が遅いからといって賃料を滞納しても良いという正当な理由にはなりませんが、感情と理性は別物です。

また、給湯器やエアコンといった設備のトラブルでは、「設備が使用できなくなった期間の分だけ賃料を減額しろ!」と交渉されることがあります。
これは2020年4月1日に施行された民法の大改正により、賃料減額交渉には応じなければいけません

本記事の執筆時点では、賃料減額の明確な基準はありませんが、(公財)日本賃貸住宅管理協会が改正後に以下のガイドラインを公表しました。
日管協版「貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン」を一般公開

この賃料減額ガイドラインによると減額分は多くありませんが、それよりも賃料の減額交渉を受ける心理的なストレスの方が大きいと思いますので、家主としてはなるべく避けたいものです。

他のトラブルが発生した際に非協力的になる

例えば、201号室の入居者と揉めてしまって関係性が悪化したとします。

後日、201号室の給水管で漏水が発生し、真下の101号室の天井から水が垂れてくる状態になったので、原因である201号室の給水管を修理するために室内への立ち入りが必要となりました。
もし201号室入居者と関係性が良好であれば、立ち入りに協力してもらえて円滑に対応することができます。

しかし、201号室入居者が非協力的になってしまうと、「室内には立ち入りされたくない」と拒まれてしまい、修理に時間が掛かってしまうことで、101号室入居者も「早く直してくれ」と怒ってしまいます。
法律や契約書に基づいて強引に立ち入ったとしてもより一層揉めてしまうのは目に見えています。

スピード対応の具体的な方法

上記の例は代表的なものを挙げましたが、その他にも嫌がらせが始まったり、更新手続きをしてくれなくなったりと、様々な賃貸トラブルの要因になってしまいます。

では、早期の対応を実現するためにどのような対応策があるのでしょうか?

いつでも繋がる連絡先を入居者と共有する

賃貸管理では悲しくも、定休日は給湯器が壊れない、年末年始は漏水が起きないということはないため、いつトラブルが発生しても何らかの対応ができるよう準備しておくことが重要です。

私は自分の携帯番号を各入居者に共有し、冬期・夏期休暇中は共用部分に休暇期間と緊急時の連絡先として私の携帯番号を掲示しています。一部の入居者とはLINEで繋がっています。
ただ、そこまでやるのは心理的なハードルがあると思いますし、賃貸管理会社で社員に強要すると「ブラック企業だ!」と言われてしまいますね。

せめて、携帯番号でなくてもメールアドレスの共有や受付フォームの作成してチェックする体制を作っておく、あるいは24時間365日電話受付をしてくれるサービスがありますので、そのようなサービスを導入することも一考です。(ただし、負担者を誰にするかは検討の余地があります)

進捗状況を確認する仕組みを作る

例えば、工事日の調整を行う際は、工事業者と入居者が直接相談した方がスムーズです。
しかし、賃貸管理会社が工事業者に依頼したまま放置し、後日入居者から「電話が来ない!」と怒って連絡が来ることは多々あります

そのような事態を避けるには、以下の3つに気を付けましょう。
①工事業者には工事日が決まったら連絡をもらうよう依頼する
②進捗確認の仕組みを作り、進捗状況を把握する
③入居者には工事業者から「●日電話がなければ連絡をください」などと依頼する

私はエクセルで「工事進捗表」に工事関係の情報を入力し、「Googleカレンダー」で工事進捗表を毎日チェックするようにスケジュールを設定しています。
参考までにエクセルデータを以下からダウンロードできるようにしておきました。
工事進捗表(サンプル)

また、工事関係以外のトラブルもGoogleカレンダーで進捗をメモしていますので、常に忘れないように仕組み作りしています。
それでも行き違いなどにより連絡が入っていないといった状況を避けるため、最初のうちは入居者に「万が一明日までに電話がなければ連絡をください」などと伝えておけば、後から激怒して電話が来るといった状況を避けられます。

出来るだけ早く現場に行く

管理戸数やアポイントの状況、物件までの距離にもよるかもしれませんが、出来るだけ早く現場に行くことはとても重要です。
これは、自分が行って直せるかどうかよりも、まずは駆けつけて入居者に安心してもらうことが大事です。

すぐに訪問して、状況を確認して、直せるものは直して、直せないものはなぜ直せないかを説明して、今後の流れを説明することで、入居者はとても安心します。
それ以降の進捗管理をしっかり行えば、トラブルが炎上することはほとんどありません。

また、「キッチンが壊れています!」「エアコンが付きません!」と連絡があり、訪問してみたらただの電池切れだったため、電池交換だけで直ったといったケースは多々あります。
その他にもパッキン交換や簡単なリモコン操作で直るといった、簡単な対応で直ってしまうケースは多いです。いきなり工事業者を手配していたら数千円から数万円の余計な出費となる可能性があります。

それらを賃貸管理会社が負担するならまだしも、結局費用負担させられるのは家主です。

私はいつでも駆け付けられるように、管理する物件数には上限を設け、管理するエリアも原則として品川区・目黒区・大田区・港区に限定しています。

まとめ

「対応が遅い」というのは、上記のような様々なリスクの発生要因となります。
反対に、早い対応を行うことで、入居者との人間関係も良好になるため、その他のトラブルがあっても非常に協力的になってくれて円滑に解決できるようになり、揉めることもほとんど無くなります。

さらには入居満足度も向上し、居住年数が延びたり、空室が出ると知人を紹介してくれたり、副産物も多数あります。
家主が自主管理している場合はそれらを心掛けていただき、賃貸管理会社に任せている場合はさりげなくどのような対応方法かヒアリングし、状況によっては改善を求めることも検討しましょう。

ご愛読いただきありがとうございました。

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