賃貸管理で知っておきたい「原状回復ガイドライン」って何?

最新更新日 2023年12月24日
執筆:宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士 三好 貴大

家主が抱えるよくある悩みの一つが「原状回復」です。2016年に東京都の相談窓口に寄せられた「賃貸借契約についての相談の内容」では、「退去時の敷金精算(=原状回復)」が38%と断トツの一位で、二位が「契約」18%でした。

原状回復でトラブルになりそうなとき、解決の指標となるのが「原状回復ガイドライン」です。正しくは、国土交通省から公開されているものが「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」で、東京都から公開されているものが「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」です。

今回は「原状回復ガイドライン」がどのような内容のものなのか見ていきましょう。

原状回復トラブルの未然防止

私が賃貸トラブルで最も重要だと考えているのは、事後の「対応」ではなく、事前の「防止」で、ガイドラインでも同じように書かれています。

国交省では、契約時に「現況確認書」を作成して、引渡し時点での破損や汚損があればそれを記録として残し、そこに記載されていないものは「破損・汚損がなかった」として、家主と借主が双方認識しておくことに加え、一般原則や契約上の特約を事前に認識させておくことが重要だと記されています。

また、東京都では「退去時と入居時の原状回復の一般原則や特約事項、入居中に設備が故障した場合などの連絡先を賃貸借契約時に説明しなさい」ということを条例で定めています。
その条例に沿って不動産業者が作成するのが「賃貸住宅紛争防止条例に基づく説明書」という書面で、業者間では「東京ルール」と呼ぶこともあります。

原状回復義務の考え方

では、そもそも「原状回復」とは何を指す言葉なのでしょうか?
国交省のガイドラインでは以下の図が記されています。

大事な要素を一つずつ解説していきます。

経年劣化・通常損耗

まず、大前提としてあるのが「経年劣化(けいねんれっか)・通常損耗(つうじょうそんもう)」です。

極端な話ですが、新築時から30年間も住み続けていたとした場合、当然にキッチンやユニットバスなどの設備や壁紙・クロスは劣化していき、古くなっていきます。
時にはキッチンのガスコンロが自然と壊れてしまったり、壁紙が剥がれてしまったりすることもあるでしょう。

つまり、建物や新しい設備は時間と共に自然と劣化していき、価値が減少していくのが経年劣化です。
それらは借主の責任ではないので、経年劣化で破損した設備等に関しては基本的に家主が負担するものと考えられています。

借主の責任とその要因

そして、上記の経年劣化の範囲を超えて破損・汚損したものを、経年劣化の水準まで回復させることが「原状回復」であると定めています。
しかし、自然災害や経年劣化による漏水などで発生した事故により経年劣化の範囲を超えた破損・汚損が発生したからといって、それを借主が負担するのは酷です。

借主に「責任」がある場合は借主が負担しますが、その要因は大きく区分すると4つです。

故意

「わざと」「そうなると理解していて」何かあった場合は、当然に借主が負担することとなります。
※例:壁を殴って穴を開けた

過失

「うっかりして」何かあった場合も、借主が負担することになります。
※例:引越作業で生じたひっかきキズ

通常の使用方法に反する使用

「普通はそんな使い方しないでしょ・・・」「そういう使い方をするものではないよね?」といったことで何かあった場合は、借主が負担することになります。

※例:開き戸にぶら下がって遊んでいたら蝶番が壊れた

善管注意義務違反

善管注意義務(ぜんかんちゅういぎむ)とは、正式には「善良なる管理者の注意義務」と言い、その義務に違反することを指します。

お部屋を引渡しした後、家主も賃貸管理会社も勝手にお部屋には入れなくなってしまいますので、お部屋を唯一管理できるのは借主または入居者だけになってしまいます。

そうすると、お部屋の管理者として、善良(モラルを守って)に管理することを注意しなければいけない、という義務が発生します。その義務に違反して何かあった場合は、借主に責任がある、という考え方が善管注意義務違反です。

※例:エアコンなどから水漏れし、その後放置したために生じた壁・床の腐食
→エアコンの水漏れは経年劣化であることが多いですが、それを知っていたのに放置したことに責任があると解釈されます。

グレードアップ

「退去時に古くなった設備等を最新のものに取り替える等の建物の価値を増大させるような修繕等」は貸主が負担するべきと定められています。
つまり、30年使用したキッチンを最新のものに交換するのは、原状回復ではなくグレードアップに該当します。

特約事項

上記の一般原則から考えると、「普通に住んでいてもお部屋は汚れていくし、退去時のクリーニング代は家主が負担するべきなの?」と感じると同時に、「うちでは借主が退去した際にクリーニング代を敷金から差し引きしているよ?」という家主が多いと思います。

その通り、一般原則では退去時のクリーニング代は家主負担です。しかし、慣習として特約を定めることで借主負担としています。
では、何でもかんでも特約に定めれば有効かというと、そうではありません。

特約が認められるためには以下の3つの要件を満たす必要があります。

① 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
② 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
③ 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること

例えば、
「退去時は借主の負担でキッチンを新品交換しなければならない。」
という特約は、暴利的かつ合理的な理由がないため無効となります。

また、特約事項を借主が認識していなければ無効になってしまうため、賃貸借契約書や紛争防止条例に基づく説明書に記載して説明し、説明を受けたことの証として署名捺印などをもらっておくことが求められます。

トラブルの解決方法

原状回復費用の清算は家主か賃貸管理会社が退去者へ説明して行いますが、多くは通常の話し合いで解決します。
しかし、多額な原状回復費用を請求したり、退去者が悪質だったりした場合は、トラブルに発展する可能性があります。

一般的には「揉めたら裁判」という認識が強いですが、その前段階として様々な解決方法があります。

例えば、「裁判外紛争処理制度」といって、弁護士会などが運営する「仲裁センター」や弁護士などに仲立ちとなってもらって話し合いで解決する「仲裁」

裁判所で調停委員や裁判官がお互いの主張を聞き、和解案を提示するなどして話し合いで解決を図る「調停」

通常の訴訟は複数回にわたり弁論や尋問などを行うため半年~1年、あるいはそれ以上もかかるケースが一般的ですが、少額なトラブルであれば1度の審理で完結できる「少額訴訟」などが紹介されています。

Q&Aや判例紹介など

37ページから「よくあるQ&A」や「42個の判例事例」、ガイドラインの内容に関係する参考資料が紹介されています。
ぜひQ&Aの内容や判例は読んでおくと勉強になりますので、1日1事例でも良いので読んでみることをオススメします。

「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」

最後に

今回は原状回復ガイドラインがそもそもどのようなものかを紹介しました。
しかし、大事なことはベースとなる知識を持った上で、どのようにトラブルの未然防止に取り組み、解決時の落としどころを考えられるか、です。

ガイドラインの内容や判例を見ると、家主が明らかに不利で不合理と感じる部分もあります。
もちろん一定のモラルは必要ですが、自身の価値基準になるべく近付けるためには、例えば特約の案文や揉めそうになったときの説明方法など、常に考えて改善を重ねることが重要だと思います。

原状回復トラブルは賃貸トラブルの中で統計上最も多い問題ですが、賃貸経営には多くのトラブルや問題の発生するリスクがあります。
賃貸管理会社によって発生率は各段に変わりますので、当社では様々な取り組みを行っております。

ご愛読いただきありがとうございました。

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