管理会社が空室対策で提案する「リノベーション」の問題点は?

最新更新日 2023年12月26日
執筆:宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士 三好 貴大

 
「空室対策」には様々な手法があり、最も多く見られるケースは「プチリフォーム」や「フルリフォーム」、更には間取りを変更する「リノベーション」です。

もし管理会社から大家さんに空室対策の手法として「リノベーション」を提案された時に潜んでいる問題点についてお伝えしたいと思います。

そもそもリフォームとリノベーションの違いは?

簡単に表現すると、
リフォーム→古くなったものを新しくする工事
リノベーション→用途や機能を変更する工事

となります。

古くなった内装や設備を一新することは「リフォーム」に該当し、1Kをワンルームに間取りを変更する場合は「リノベーション」となります。

管理会社から提案されるリノベーションの問題点は?

お部屋が決まらない理由を「室内や設備が古い」と判断し、「時流に合わせたリノベーションをしましょう」を提案するケースは多く見られますが、以下のような問題点がある場合が非常に多いです。

①実用性や実際のニーズに目を向けていない

例えば、1Kや1DKの間仕切り壁を抜いてワンルームに変えたり、2DKを1LDKに変えたりするリノベーションが代表的です。

しかし、単身者の場合はキッチンと居室が分かれていてほしいというニーズが多く、1Kからワンルームにリノベーションすることで「1Kが良い」というニーズを取り逃すことになります。
私の経験上、「ワンルームが良い(1KはNG)」という人はほとんどいません。

また、2部屋欲しい、広いリビングと寝室1部屋が欲しいというニーズに対して、2DKであれば両方カバーできますが、1LDKだとターゲットが後者だけになってしまいます。
つまり、かえってターゲットが狭まってしまう可能性があります。

②表装だけに注目し、建物自体の寿命やライフプランは考えていない

例えば、築25年のRC造マンションで、室内のキッチンやユニットバスも古くなってきた物件があるとします。
この機に設備類を一新し、壁・天井のクロスだけでなく、床も差別化で無垢材のフローリングにして・・・と気合を入れて何百万円も掛けてリフォームし、無事に「早期成約=空室対策成功」になったとします。

しかし、問題は5~10年後に発生します。
使用されている「給水管」の多くは築30年をめどに継手部分から漏水が発生し始めます。
一か所を直したと思ったら別の場所からも漏水が発生して、イタチごっこのように修繕費が増えていき、入居者とのトラブルに発展するケースもあります。

同時に、床鳴りの発生や床下地のたわみなどが発生し始めて、給水管と床下地など全てをやり直すため、結局は一新したはずの設備類も交換・・・というケースも大いに考えられます。

設備・表装が古い場合はどうすればいいの?

まずは、「建物をあと何年存続させたいか?」を考えることから始まります。
例えば築25年の物件の場合で想定してみましょう。

あと5~10年で建て替える

何もしない、または必要最低限のリフォームで取り壊すまで延命させます。

あと20~30年で建て替える

給水管や床の下地も含めてフルリフォームまたはリノベーションします。
将来のトラブルを回避でき、リフォーム等により収入を早く増加させられるため合理的です。

あと35年以上存続させたい

まずは「必要最低限のリフォーム」で延命させ、5年後くらいに入居者が退去となったら給水管や下地も含めてリフォームする方向で考えます。

つまり、目の前にある「空室」を解決するのはとても重要ですが、それ以上に建物のライフプランを考えた上で適切な判断なのか?を意識することが大事です。

管理会社はリノベーションをなぜ提案するのか?

もちろん優良な管理会社であれば、建物のライフプランや市場動向などを考えた上でリノベーションを提案することもあるかと思います。
しかし、私の経験上では悲しいことに以下のパターンが非常に多いと感じます。

空室対策の選択肢が少ない

目下の課題である「空室」を解決したい心意気は良いのですが、残念ながら適切な判断ではないことが多いです。
なぜなら、世の中にはどのような空室対策が存在するか知らず、その物件に適した新しい空室対策は何かないか模索することをしていない人が多いからです。
中には「空室対策はリノベーションだ!」と安易に信じ込んでいる人もいるため、家主自身が知識を身に付けて注意する必要があります。

キックバック狙い

残念ながら最も多いのがこのパターンです。
不動産業界には慣習として、本来の工事費に不動産会社が10%水増しさせて、水増しした10%分の金銭を「紹介料」「業務委託費」など別の名目で受け取ります。
これを「キックバック」「バックマージン」と呼びます。

10%とは一例で、中には3~5%のこともあれば、過去に聞いた例では100%、つまり本来の工事費の倍額になっていたこともあります。

リノベーションの前に取り組むべき対策はないのか?

私が過去に相談を受けた空室の半数以上が費用を一切掛けず満室にできました。
なぜなら、空室の原因のほとんどは物件ではなく、入居者募集している「不動産会社」に原因があるからです。

例えば、
・広告サイトで「バストイレ別」など大事なチェックが全く入っていない
・写真のクオリティが低すぎて物件の印象が悪い
・封水が切れて下水の汚臭が部屋中に充満してしまっている

などがあり、悪質なケースではそもそも募集すらされていなかったこともあります。

また、お金を掛けなくてもできる空室対策はあります。
・お部屋を綺麗に撮影する
・共用部分を掃除して清潔にする
・二人入居やDIYなど、入居条件を緩和する

などはほんの一例で、手法は無数に存在します。

最後に

空室に困ったとき、管理会社からリノベーションを提案されたときは、「今やるべきなのか?」を考え、そうでないときは「他に方法はないのか?」を考えて、適切な判断を行えるようにしていくことが大事です。

ご愛読いただきありがとうございました。

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